よくある奴

別に面白くもない家族の話とか昔話とか。

定食屋のおばちゃんがグイグイ来る

もう店を閉めて何年になるだろう、鳥の半身揚げ定食が無茶苦茶美味くて足繁く通った定食屋があった。

店に入るなり、店主の奥さんのおばちゃんが、

「あ、また来たね!今日も鳥かい?」

とメニューを見る暇もなく、ってか座る前にもう決めてしまう。だから鳥の半身揚げ定食以外のメニューに何があるかよく知らずじまいだった。

 

まぁそれはいい。実際Googleの口コミとか食べログの評価は鳥の半身揚げ定食以外はイマイチみたいな言われ方だったし、他のメニューを頼むつもりも無かったから。

 

だけどね、そこのおばちゃんが距離感がバグってるってか、何せグイグイ来るのが辛かった。

もうね、世間話が辛いの。

 

いつもの様に鳥を頼みカウンターに座るとおばちゃんが横に座り、数年前に息子がマンションを購入し、そこでは犬が買えないから息子の犬を店の主人夫婦の家で飼っている事、そしてもう年老いてガンに罹患してしまって先が長くない事等今からガッツリ系の定食食おうって俺の食欲を抉るような事を涙ながらに俺に語る。

おばちゃん「ガンが口腔にも転移しちゃってね…朦朧とする位の量の痛み止めで殆ど寝てるんだけどね、たまに意識がはっきりすると痛い、痛いって血を吐きながら鳴くの。もう今日明日にも死んでしまうかもしれない…目が離せないから店に連れては来てるんだけどね…」

 

いや、おい、連れてきてんのかよ…

その後席に運ばれた鳥の半身揚げ定食、砂みてえな味しかしなかった。

 

別の日も鳥を頼み、カウンターに座ると裏口に日本語がカタコトな若い女性が沢山来て何かを話している様子。

去っていった後にまたおばちゃんが隣に着座。

近所にベトナム人実習生の寮があり、何やかやで親しくなってお裾分けを貰ったらしい。

 

おばちゃん「いい子たちなんだー。みんなでパーティやるから寄りなとかって誘ってくれてね。おばちゃん達はお店があるから行けないよって言うと、じゃぁ料理を持ってきたから食べてねって置いていったの。」

そこで突如おばちゃんの笑顔が消え真顔に

おばちゃん「でもね、ほら、向こうの料理だから口に合わなくてね、おばちゃん達食べられないの。悪いんだけど食べてくれる?」

そう言ってラーメン丼みたいな器一杯の何か香草みたいのが入ったお粥と、同じ様な器一杯の見た事ない草みたいなのが入った嗅いだことない匂いのするサラダらしき奴が。

 

いやね、僕はね、鳥定食が食べたくてここに来たの。

アジアンなお粥が食べたかったらそういうお店に行くんで。

 

食いたくない物で腹が満たされた後に来た鳥の半身揚げ定食はやっぱり砂みてえな味だった。

 

その日以外にも、健康を考えたら脂っこい物や塩辛いものを控え、ジャスミン茶(ここが謎)を一日2リットル飲めとわんこそばレベルでジャスミン茶を注いできたりとかそれはまぁ毎回半身揚げ定食待ってる間にグイグイ来る訳ですよ。

僕は今からその店でも屈指の脂っこくて塩辛い鳥の半身揚げ定食を食うわけですが。

次に行った時には謎のジャスミン推しなんて無かったかのように一切触れなかった。

何だよ。ジャスミン茶にしばらくハマって未だに好きな責任取ってよ。

 

そんなこんなで頼んだ好物にまずたどり着く所までが大変だった鳥の半身揚げだけど、たまに猛烈に食いたくなるんだよな。

今は全く違う店になってるんだけど、前を通ると思い出す。

あのグイグイ来るおばちゃんと、普段は無口だけどたまにカウンター越しに昔話をする大将は今でも元気しているんだろうか。

 

大将の昔話、うんうんって頷いて居たけど、いっつも鳥を揚げてる音と真横にあるテレビでかき消されて8割方聞こえなかった。ごめんよ。でも聞こえないんだよ。腹から声出そうよ。